2010年6月19日土曜日

いったい、どうやって!?

「あんたの手は、あったかいネ〜」
バイパスを横断しながら、おばあさんがニッコリと笑って言いました。

毎朝散歩するコースの途中、国道の手前の古い木造の平屋の前を通ります。
そこには、80をとうに過ぎたと思われるおばあさんが、たった独りで住んでいます。
夜が明けると起きて、真冬でも全部窓を開け放ち、せっせと家中を掃除しているようです。
時々、「おはようございます」と声を掛けるのですが、少し痴呆ぎみのようで、ほとんど反応してくれません。

今朝、散歩から帰ってくる途中で、そのおばあさんが道の真ん中を歩いているのを見かけました。
背を90度に曲げて、辺りをきょろきょろ見回しています。
「どうされました?」と声を掛けると、「・・・あたし、家がわからなくなっちゃって」と言って、泣き出しそうな顔をしました。「おばあさんのお家知ってるから、僕と一緒に帰りましょうか?」と聞くと、少し安心したようで、私と一緒に歩き始めました。・・・いったいどうやってこんなところまで来ちゃったんだろう?

毎朝自宅の周りを歩いていて、今朝はたまたま帰れなくなったこと。昔はもっと都心で暮らしていたこと。大正11年生まれだけれど、もう自分の歳も思い出せないこと。今でも自分のお母さんと一緒に暮らしていること(本当はとっくに他界されたんだと思います。)などを、ゆっくりと歩きながら話してくれました。

歩くスピードは1分間で15〜6メートルぐらい。おばあさんの家は400メートルぐらい先です。おばあさんは、「あたしは歩くのが遅いから、ごめんなさいね〜」と、とても気を使ってくれました。だいぶ痴呆が進んでしまっているようですが、昔は親切で優しい人だったんだと思いました。

しばらく歩くと、国道16号線のバイパスに差し掛かりました。八王子の幹線道路で道幅が広く、最も交通量の多い道です。50メートルほど歩いて迂回すれば横断歩道もあるのですが、信号が青の間に道路を渡りきることが出来ないと思い、車が途切れたのを見計らって、おばあさんの手をとって歩き始めました。

私の手を握って一生懸命に歩いているおばあさん。でも、遠くの信号が変わって車が加速しながらこちらに向かってきます。ヤバイ!と思ったときに、「あんたの手はあったかいネ〜」と、後ろからおばあさんの声がしました。振り返ると、私の手をしっかり握って、ニッコリと笑っていました。

車が通過する直前に、何とかバイパスを渡りきり、歩道にあがることが出来ました。ホッとしておばあさんの顔を見ると、家の近くまで来て自分の場所がわかったらしく、安心した様子でした。

30分ぐらいおばあさんに付き合って歩いたけど、おばあさんに私の手が暖かかったことをよろこんでもらえて、とても嬉しい気持ちになりました。

子供しかるな来た道じゃ
年寄り笑うな行く道じゃ

室町時代・臨済宗の名僧 一休宗純の和歌を思い出し、朝から長々と日記を書いてしまったレックス 原でした。

0 件のコメント:

コメントを投稿

フォロワー

ブログ アーカイブ